『木星のおおよその大きさ』について

宇宙は社会の縮図である

〈(株)ジュピター〉を舞台に喫煙所でのマナー、目に見えにくいジェンダー・バイアス、ランチタイムの人間模様など、職場で起こる些末かつ根深い問題を、ユーモアと皮肉を込めて描く。ミニマルな作風で知られるわっしょいハウス犬飼勝哉による新作長編。

 木星は
一周してみて
はじめてその大きさがわかる

昨年より長期間の制作を経てまいりました〈木星〉シリーズ。
完全版として『木星のおおよその大きさ』を2018年6月、上演します。

テアトロコント(渋谷ユーロライブ)初参加作品として制作された『木星の日面通過』や、どらま館ショーケース2017(早稲田小劇場どらま館)にて好評を博した『木星からの物体X』をはじめ、本作品は「木星=(株)ジュピター」を各場のタイトルに配した八作の連作によって構成されます。

—それではプログラムをご紹介します。(最終更新 2018/5/31)

 

■第一場『木星の日面通過』

煙草を吸っている時間というのは、はたして、仕事のうちに入るんでしょうか

喫煙者の気持ちは喫煙者でないと、非喫煙者の気持ちは非喫煙者でないとわからない。ジュピターの喫煙所はビル裏口に所在する。喫煙者にしてみれば肩身が狭く非喫煙者にしてみれば通り道なので、双方から評判がすこぶる悪い。
(出演者三名/25分)


■第二場『木星からの物体X』

私てっきり男性の方だと思って、メールのやり取りをさせていただいておりまして

木星に新規取引先の担当者が到来。女性である。職場における男女の「違い」は時として「差別」となり、気づかれにくいかたちで私たちの身近に存在している。省みられる場面も近年では増えてきたがまだまだバランスは適切でない。
(出演者三名/25分)


■第三場『真昼に見える木星』

私としてはランチに千円以上というのは、けっこう罪悪感なんですね

それは左利き用のキャッチャーミットと同じく、ありそうで存在しないものという意味の隠語だ。(株)ジュピター ――この物語はフィクションである。舞台上に登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係がない。
(出演者三名/15分)


– 途中休憩 –
(5~10分)


■第四場『五年後の木星』

五年も経過するとね、やっぱりいろいろ忘れちゃうんでしょうね

一年は三百六十五日、より正確にいえば三百六十五.二五日で地球は太陽の周りを一周する。地球が太陽を五周するあいだに、木星はたった半周すらしていない。木星は十二年に一歳年をとる。つまり木星にとっての五年は、地球にとっての六十年だ。
(出演者三名/20分)


■第五場『木星の逆行』

やっぱりこう、人生設計、じゃないですけどいろいろと考える年齢ですよね、こう、ライフプラン的なものを

二〇一七年二月六日、天秤座の位置にあった木星が逆行を開始する。吉星である木星の逆行は、転機をその人にもたらすという。ふたたび順行となるのは六月九日のことだ。ちなみに間違えて反対方向のエレベーターに乗ることも、ここでは「逆行」と呼ぶ。
(出演者二名/10分)


■第六場『木星という星とは』

ジュピターさんって、名前はよく聞くけど何してる会社なんだかよくわかんないよね

二〇一八年一月、木星探査機「ジュノー」から送られてきた木星の最新画像は記憶に新しい。渦を巻く幻想的な雲や嵐は、本当にこの世のものなのだろうか。木星は気体でできたガス惑星だ。危うく近づきすぎるとそのぶ厚い雲に飲み込まれ命を落とす。
(出演者一名/5分)


■第七場『ふたたび接近する木星』

でも萩原さんはお子さんはいらっしゃる?

働き方やライフスタイルの選択肢は今日増している。結婚や子育ての価値観には多様化が見られる。しかしこの国にはまだまだはっきりとしたレールが、そこに敷かれる。私は私のはずなのに、いつの間にか他人の基準を生きてしまっていないだろうか。
(出演者五名/20分)


■第八場『木星のおおよその大きさ』

あれ。これTOTOかと思ったらLIXILって書いてある

男子トイレに立ち入ったことのある女性は少ないだろう。横並びの小便器にはひとつずつセンサーが付いている。人が前に立つと水が流れ、用足しが終わり離れた際にもう一度水が流れる。たまに壁面にはこんな注意書きがある。「もう一歩前へ——」
(出演者三名/15分)

 

※演劇は生物(ナマモノ・セイブツ)です。
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