[日誌]4月22日『木星の逆行』2

稽古場には犬飼さんと渡邊さん、それから僕がほぼ同時に着いて、そのあとすぐに前原さんがやってきた。飲み物とか台本をかばんから出したりして準備をしつつ、雑談をする。前回の稽古日誌に、犬飼さんが足湯のくだりで笑っていた、と書いたのだけれど、それについて犬飼さんが「あれ、おれ笑ってたかなあ」と口をとがらせる。笑ってたと思うんだけどな。
話をしていると、すっと話が途切れる瞬間が何度かあって、その度にいつ始まるのかとタイミングを伺う。
犬飼さんが、じゃあ始めましょうか、と言ったあと、「なんか最初始めようっていうとき、ちょっとやだよなあ」と笑った。

まず一度、座って読み合わせを始める。
その後、前回からの課題だった前原さんのプレイボーイ感は、間が空いたあとに話しかける際、遠慮感が薄いせいではないか、と犬飼さんが言う。
それから、前原さんが一人語りを「やらかす」ところは一つ一つの間を開ける感じで、とか、「読むじゃないですか」と言うところは誤魔化すように、とか、そういった具体的な指示のあと、犬飼さんがぽつっと「浅漬けな感じがした」と言った。セリフのひとつひとつが一定の方向に向かっている気がする、と。おそらくこれは前回の冒頭であった矢印の図の話だろう。
でも、と犬飼さんは続ける。「もしかしたら、これ座ってるからそう感じるのかも」

そういうわけで、2度目は立って読み合わせることになった。
犬飼さんが、通して読み合わせるほうがいいか、半分に切ったほうがいいかと問い、前原さんが「続けてやりたいですね」と答える。犬飼さんが「まだ切る段階じゃないか」と言ったので、そうか、「まだ」なのか、と思った。

前原さんの方がセリフ量が多いのもあるだろうが、彼がしばしば台本を見るのに対し、渡邊さんはほとんど台本を見ない。
その代わり、すごく動く。やり場のなさや気まずさを表すように手足がぎこちなく動く。バイト先で社員の人とエレベーターを待つときのことを思い出した。

読み合わせが終わると犬飼さんが第一声で「なんかね、エロかった」と言う。なんでだろう、という話をしつつ、再び前原さんの一人語りについての話に移る。あそこはこの劇の中でいちばんエモいところらしい。
それからエレベーターに乗る際の動きをどうしようか、と試行錯誤が始まり(これはしばらく続くのだけど)、ひとまず仮の案で3度目の読み合わせに入った。

が、入ったものの、前原さんが登場したあとすぐに、「前原さんが来たとき、渡邊さんが若干前原さん側に寄っているように見えたんですが…」と犬飼さんが止める。これがエロさだったのかなあ?と話しながらイメージ、あるいは立ち方の話になる。
渡邊さんは、エレベータは割と細かくイメージしているが、そのイメージの中に没入しすぎると「エレベーターを待つ」をやっている人になってしまうから、あまりやりすぎないようにしている、と話す。それに対し、渡邊さんはこれからセリフの交換を始める、という意識、あるいは会話を運営しなければならないという意識から、戦闘態勢をとるように近づいたのかもしれない、という仮説が立てられる。
犬飼さんは、記号的な振る舞い、つまり「エレベーターを待つ」をやるというので十分じゃないかと思う、とも言ったが、しかし、それははっきりとした指示ではなかった。

それから、再び読み合わせが始まる。渡邊さんは途端に足が動かなくなった。犬飼さんはそれに対して、場所が定規された感じがして見やすくなった、と言う。

この日の稽古は、本当に、前原さんの一人語りについての話がかなり多くて、4度目の読み合わせのあともその話が出た。
一人語りのところは「考えてますかね。」「一人で。」のところから、バーストする感じで、と犬飼さんが言ったところ、前原さんがテンションも上がっちゃっていいんですか? と訊く。負のテンションが上がる感じで、とのことだった。

5度目の読み合わせが終わり、犬飼さんが会話にスピードがほしい、と言った。間を効かせるためには、喋っているときとそうでないときの差が重要なのだ、と。
それから話題に上るのはエレベーターに乗るシーン。紆余曲折を経て、どうするかが決まる。エレベーター内に踏み出したあとには、場面がぱっと切り替わってエレベーター内にいる、というような、おそらく映像ではよくあるシーンの転換を舞台上で試みようとしていた。
エレベーター前からエレベーター内にという移動の意識。役から解除された状態を作ることでシーンとシーンを分断するということ。

6度目の読み合わせのあと、完成に近づいてきたんじゃないですか、と犬飼さんが言う。それは、もう「切る」段階になってきたということなのだろうか。

7度目と最後の読み合わせでは、間を効かせるためには、という話に終始した。
視線や発話のタイミング、テンションについて。時間ぎりぎりまでそういったことを実際に読み合わせながら確認した。
僕らは頭より身体を信用している節がある。

 

早稲田大学 文学部 演劇・映像コース演劇系在学中。